第11回 知の拠点セミナー
「ゲノム情報の読み取りから難治疾患に挑む」
日時 | : | 平成24年8月24日(金) 17時30分~ |
講演者 | : | 北嶋 繁孝 (東京医科歯科大学 難治疾患研究所 所長、遺伝生化分野 教授) 石野 史敏 (東京医科歯科大学 難治疾患研究所 エピジェネティクス分野 教授) |
私たちは、難治疾患とは「病態が明らかにされていないために未だ有効な診断法、さらには治療法や予防法が確立されていない病気」と定義し、その克服のために、生物としての“ヒト”の根本的な問題、例えば、ヒトとはそもそもどのような生物で、遺伝子発現はどのように制御され、細胞はどのように働き、疾患ではどのような変調をきたすのかなどの視点から疾患を見つめています。
今回は、研究所の3つの大きな柱の1つであるゲノム応用医学部門を代表して2名がその研究を紹介します。
遺伝子はタンパク質の設計図であり、個体発生や成長だけでなく疾患の原因となる重要なものです。ヒトゲノムには2万を越える遺伝子が存在しますが、ゲノム中の割合はたったの2%です。その遺伝子がどのようにして精密に制御されているのかが少しずつわかり病気との関係もわかってきています。一方、ヒトにとって迷惑な存在であり、ゲノム中のゴミまたは利己的遺伝子とも呼ばれるレトロトランスポゾン由来の配列が、なぜかヒトゲノムの半分を占めていますが、これらの遺伝子以外の領域にも遺伝子発現調節などの重要な役割があることがわかってきました。そして遺伝子発現を制御するエピジェネティクスという新しい研究領域も進展しています。つまり、ヒトの遺伝子の読み取りを知るには、これら総てをあわせたゲノム全体の機能を知ることが必要です。
本セミナーでは、北嶋がゲノム情報の読み取りに重要な「転写制御因子」がどのように難治疾患に関わるのかと、細胞のストレスやガンに対する応答が新しい治療薬の開発につながる可能性を紹介します。また、ゲノム中のレトロトランスポゾンが哺乳類の進化の際に新しい遺伝子群に変化し、胎児への栄養供給に重要な胎盤形成に機能している例と、それらが関与するヒト疾患について石野が紹介します。